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 応用地域学会論文賞
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論文賞の趣意
 応用地域学会論文賞(Best Paper Award of ARSC)は、地域科学研究発展の視点に立ち、会員の活発な研究活動を奨励することを目的とし、<応用地域学研究>ならびに<RURDS>に掲載された学会員の論文を対象に、最も優れた論文に与えられます。
 
論文賞選考規程
各年度の授賞論文と選考理由

2017 | 2016 | 2015 | 2014 | 2013


2017年度 授賞論文と選考理由
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論文名:IoT車両情報の速度に関するモニタリング選択問題
掲載誌:応用地域学研究 第20号(2016)pp.25-35
著 者:栗野 盛光(筑波大学システム情報系社会工学域), 高原 勇(筑波大学システム情報系社会工学域)
 
選考理由:
 本論文は、自動車の運転者が政府による走行速度のモニタリングを受けるか受けないかを自分で選択するとき、モニタリングを受けることを自発的に選択するようにするには、金銭的授受の制度をどのように設計すればよいかを、厳密なモデルを構築して分析したものである。走行速度のモニタリングは、IoT車両情報が利用できるようになった比較的最近の技術で、それをメカニズムデザインの枠組みで分析するという試みはこれまでになされておらず、非常に独創的な研究である。また、自動車の走行速度の誘導という政策課題に対するインプリケーションも大きい。さらに、モデルの設定はシンプルで頑健で汎用性も高く、分析は正確で必要十分である。
 以上のように、本論文は、今後の応用地域学の新しい方向を示す模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいと判断する。
 
2017年度 論文賞選考委員会
   委員長 高橋 孝明(東京大学)
   委 員 河端 瑞貴(慶応義塾大学)
   委 員 河野 達仁(東北大学)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC会長)
   委 員 大澤 義明(ARSC 副会長)



2016年度 授賞論文と選考理由
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論文名:DISSATISFACTION WITH DWELLING ENVIRONMENTS IN AN AGING SOCIETY: AN EMPIRICAL ANALYSIS OF THE KANTO AREA IN JAPAN
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 27(3)(2015)PP.149-176
著 者:Noriko Ishikawa and Mototsugu Fukushige
石川 路子(甲南大学経済学部経済学科), 福重 元嗣(大阪大学大学院経済学研究科)
 
選考理由:
 本論文は、独自に大規模なアンケート調査を実施して、関東地方の人々の転居に関する希望と居住環境の不満足度との関係について分析したものである。その結果、交通、店舗、医療施設へのアクセスが転居において重要な要因となることを明らかにしている。人々は交通、店舗、医療施設へのアクセスが容易な豊かな地域へ転居を望む一方で、そのような地域においては居住に必要な生活費が高くなるため、居住環境への不満足が解消されないこと、高齢になるに伴い生活費や家族・知人との関係も重要な要因になることなども明らかにしている。
 これらの結果は、高齢化に直面する日本やその他の国々における住宅政策や、いわゆるコンパクトシティなどの都市政策の意義を考える上で、有益な知見を与えるものであると高く評価できる。
 以上のように、本論文は計量経済学の標準的な手法を用いつつ、独自の調査に基づく貴重なデータを構築することで、地域の今日的な政策課題への挑戦に対して多くの示唆を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
 
2016年度 論文賞選考委員会
   委員長 堤 盛人(筑波大学)
   委 員 高橋 孝明(東京大学)
   委 員 河端 瑞貴(慶応義塾大学)
   委 員 文 世一(ARSC会長)
   委 員 安藤 朝夫(ARSC 副会長)



2015年度 授賞論文と選考理由
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論文名:CHILDCARE ACCESS AND EMPLOYMENT: THE CASE OF WOMEN WITH PRESCHOOL-AGED CHILDREN IN TOKYO
掲載誌:Review of Urban & Regional Development Studies 26(1)(2014)PP.40-56
著 者:Mizuki Kawabata(河端 瑞貴)
 
選考理由:
 本論文は、東京都区部における未就学児童保育施設需給の空間的ミスマッチと、それが母親の就業成功率に与える影響について、国勢調査統計区レベルの人口データと、個々の保育施設の年齢別受け入れ数データをGISを駆使して定量的に分析したもので、女性の就業促進環境の改善という社会的な要請の大きい政策を考えるうえで有用な論文となっている。
 この分析では、児童の年齢によってサービスを提供している施設の数や分布が異なることに着目し、実際に0-2歳という低年齢層ほど需給バランスが大きく崩れている地域が多いことを実証的に示している。さらに、独自に収集された未就学児を持つ母親のアンケート調査データと結合してプロビットモデル分析を行った結果、希望するタイプの保育所が存在することにより、0-2歳児を持つ母親が希望の職種に就業できる確率が62%上昇することを示し、これは3-5歳児を持つ場合の23%の上昇に比べて大きな効果を持つことを明らかにし、今後の保育環境改善の方向性に対して有益な示唆を与えている。
 本論文は、個々の保育施設への照会によるデータを含め、労力をかけて多量のデータを収集し、アドレスマッチングの適用によって一元的な空間分析を行ったもので、今後、住所や希望就業先に関する詳細な情報を含むアンケート調査と結合するなどの拡張も期待できるものとなっており、発展の余地が大きいと考えられる。
 以上のように、本論文は新しい手法を駆使して現代的な課題に果敢に挑戦し、明瞭な結論を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
 
2015年度 論文賞選考委員会
   委員長 奥村 誠(東北大学)
   委 員 堤 盛人(筑波大学)
   委 員 高橋孝明(東京大学)
   委 員 文 世一(ARSC会長)
   委 員 安藤朝夫(ARSC 副会長)



2014年度 授賞論文と選考理由
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論文名:「交通アクセス改善が観光サービス産業の集積に与える影響」
掲載誌:応用地域学研究No.18(2014)PP.29-40
著 者:森本裕
 
選考理由:
 本論文は、交通アクセスの改善が観光産業の集積や観光地間の競争に与える影響について、新経済地理学モデルを用いて分析したもので、2006年の観光立国推進基本法の制定を受けて観光産業の推進が課題となっている我が国の観光政策を考えるうえで有用な論文となっている。先行研究と比較して、本論文では財ではなく人が移動する、消費者は対価を払うことなく景色や文化などから効用を得るという観光の特性を組み込んだモデルを提案し、さらに各観光地に立地する企業数の順位が交通費用の低下により発生する可能性を示している点に大きな貢献がある。このモデルでは、消費者は、出発点である都市からまず広域的な交通機関を用いて結節点に至り、そこから複数の観光地を選んで移動するという空間構造を仮定してモデル化している。広域的な交通機関の交通条件の改善が来客数、観光企業への需要と利潤に与える影響を、短期(消費者の目的地選択は変化するが観光企業の立地は変化しない)と、長期(企業の立地の変化も許した)に分けて分析し、有用な結論を得ている。さらに結節点から先で複数の観光地を周遊できる場合についても拡張し、短期的には交通費用の低下により周遊を選択する消費者が増加するものの、長期的には周遊を選択する消費者数は増加するとは限らないという興味深い結果が示されている。
 本論文は、観光産業の競争の分析を簡潔なモデルで見通し良く行っており、今後観光地間の協調を考慮したモデルへの拡張や、複数均衡の存在に関する研究への拡張も期待できるものとなっており、発展の余地が大きいと考えられる。
 以上のように、本論文は応用地域学分野の標準的な手法により、現代的な課題に挑戦し、明瞭な結論を得ることに成功した模範的な論文であり、応用地域学会論文賞にふさわしいものであると認めます。
 
2014年度 論文賞選考委員会
   委員長 大澤 義明(筑波大学)
   委 員 奥村 誠(東北大学)
   委 員 堤 盛人(筑波大学)
   委 員 中村 良平(ARSC会長)
   委 員 文 世一(ARSC 副会長)



2013年度 授賞論文と選考理由
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論文名:「Weighted-Average Least Squares の空間計量経済モデルへの適用」
掲載誌:応用地域学研究 第16号(2011)
著 者:瀬谷創・堤盛人・山形与志樹(3名とも学会員である)
 
選考理由:
 近年、地域科学関係の国際会議や国際誌においては、空間計量経済学の占める割合が非常に高くなっている。一方で、我が国では空間計量経済学を専門とする研究者は数える程しかおらず、実証研究も未だ少ない。そのような中で著者らは、空間計量経済学に関する理論・実証研究を積み重ねており、本論文は、空間計量経済モデルにWeighted-average least squares (WALS)と呼ばれるモデル平均化アプローチを適用した独創性の高い研究である。本論文では、緻密な2種類のモンテカルロ実験により、(1)データ発生過程が空間的自己相関を持つ確率過程である場合、従来の非空間推定量が過大方向のバイアスを持つため、単純な非空間モデルの適用が誤った政策的示唆につながる可能性があること、および(2)空間計量経済モデルとWALS の組み合わせが、除外変数バイアスの緩和に有用であること、が示されている。モデル平均化に空間的自己相関を導入する一つの方法論を提示しつつ、空間的自己相関を無視することの危険性を示した本研究の意義は非常に大きい。
 よって、本論文は応用地域学会論文賞を授与するにふさわしいと判断した。
 
2013年度 論文賞選考委員会
   委員長 黒田 達朗(名古屋大学)
   委 員 大澤 義明(筑波大学)
   委 員 奥村 誠(東北大学)
   委 員 中村 良平(ARSC会長)
   委 員 文 世一(ARSC 副会長)